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  • 2016/09/19
  • 0
anime, movie

聲の形

20160919

ここのところ号泣案件多いな。

原作は読んでいなかったのですが、京アニ製作、そして大好きな作品をたくさん作ってくれている山田尚子作品ということで早速見てきました。前提知識ゼロだったですが、予告編などを見る限り号泣案件かなと思っていましたがやはり号泣でした。

聲の形という独特のネーミングからも想像される通り、この作品では声が重要な意味を持っています。主人公の西宮硝子は、生まれつき耳が聞こえません。そのため、発話を学ぶこともできないので会話もほとんどできません。小学校に転校してきた硝子は、筆談で周りとコミュニケーションを取ろうとしますが、世界との関係をうまく築けなくなってしまいます。もう一人の主人公、クラスメイトの将也も、硝子との関係をうまく作れず、やがて大きなトラウマを抱えてしまいます。硝子をいじめていたといえばそいうなのかもしれませんが、いわゆる気になる娘に構って欲しいという子供心からの表現方法。未熟が故の表現。それに対して、硝子は愛想笑いを繰り返し本当の表情を見せない。それが周りをイラつかせてしまいます。作中なんども登場するガラスの愛想笑い。これは、自分が我慢すれば周りが争わなくて済むという防衛手段であり、声によって表現できないことからの諦めのようなものと感じました。そんな繊細な表情が見事に描かれていました。

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やがて、将也は硝子をいじめていたことがバレてしまい、世界から拒絶されます。実際はこれは違うのですが。この世界からの拒絶の表現がとても面白くて挑戦的です。キャラクタ全員の顔にバツマークをつけるという、アニメ作品ではなかなかない表現。しかも結構最後までこの表現なんですね。いや、本当に挑戦的です。母親が大金を硝子の母親に渡す姿や、硝子の母親に耳を切られる母親の姿を見て、自分がやってしまった行為の意味を知って孤立を選んでしまいます。

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そして、小学校、中学校を卒業して高校。手話を学んでいた将也は、偶然硝子と再会します。そして、再び関係を繋げようと足掻く将也。小学生の時と違い表現力も考えることも学んだ将也ではあるのですが、一方で硝子は小学校の頃のまま世界と向き合うことができず愛想笑いを振りまくまま。でも、その意味を理解できいる将也は諦めない。この一途さは、山田監督のお得意とするところかもしれません。たまこラブストーリーのもち蔵のような一途さというか。本当に、あれこれ考えて硝子にアプローチをかける姿は、滑稽でもあり感動を呼ぶものでもあります。

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そして、二人の間をつなぐ重要な役割を持っていたのが硝子の妹の結絃なんですね。二人の再開後、硝子と会うことを妨害する結絃ですが、それは姉への憧れであり、守りたいという一途な想いからなんですね。髪を短くして、俺と呼び男の子のように振る舞う姿も、姉を守りたいという想い。そんな結絃も、将也の本当の想いを知ってからは、積極的に姉と会わせようとあれこれ仕組みます。この姿が本当に可愛い。自分自身も、登校拒否していて世界を拒絶しながら、同じく世界を拒絶された硝子と将也をつなごうとしたのは、本当は繋がりたいという想いの表現だったのかもしれません。結絃は、この作品の中では最も表情豊かなキャラクタかもしれません。普段の姉を守るツンツンした顔、将也と話すときの屈託のない笑顔、おばあちゃんが死んで辛さに押しつぶされそうになる泣き顔。こう言った表情豊かなキャラクタは演じるのが難しいのですが、悠木碧さんを抜擢したのは大成功ですね。彼女の表現力ならば申し分ありません。

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そして、硝子が全身全霊をかけて表現した「好き」という言葉。筆談でも手話でもなく、声で伝えようとした言葉。しかし、それも将也に伝わらず、諦めにも似た想いを感じたのではないでしょうか。そのあとも二人は会うのですが、そんな表情を感じました。この告白のシーンは、いかにも山田監督らしい表現ですごく良かったです。勇気を振り絞っている様子を、顔は映さずスカートをぎゅっと握りしめるシーンで表現。山田監督は、下半身や足だけ写してキャラクタの感情や場の雰囲気を表現することがよくあります。このシーンも、硝子の頑張っている姿がすごく伝わってきました。

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やがて、関係を築けていったように思えた二人ですが、それはあっけなく硝子の自殺未遂で壊れそうになります。結絃が動物の死体ばかりを写真に撮って防いできた硝子の自殺という答えを、ついに硝子は選んでしまいます。この時、将也がある意味身代わりになるのですが、それもまた将也の硝子に対する恋愛表現だったわけで。将也が重傷を負って、周りが本気で怒り、悲しむ姿を見て、ようやく硝子も自分の行為の意味を学ぶんですね。そして、ようやく本当の気持ちをお互いに交換できるようになる二人。あっけないといえばあっけないのかもしれませんが、声で表現できない二人には必要なプロセスだったのかもしれません。将也が重傷を負った後、硝子が本気で泣き崩れるシーンがありますが、この緊迫感、感情はすごい表現力でした。

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そして最後、二人で文化祭に行き、将也は小学校以来拒絶されていた世界とつながります。それも、拒絶されていたのではなく、自分が拒絶していたわけですが。ついに、小学校以来付き続けていた周囲の顔のバツマークが取れます。そして、聲が聞こえ始めます。ここの表現は、本当に素晴らしいものでした。この作品は、硝子の世界を表現したかのように、少しこもったような音楽がよく使われていますが、それが一気にクリアな音楽に変わり、まさに世界とつながったことが表現されています。全体を見ると、小学校以来将也と硝子は同じように世界が見えていたんですね。硝子にとっては病気という強制的な世界から、聲からの隔離ですが、将也にとっては心を守るために世界から拒絶されたと思い込んできたわけです。それが一気につながる本当に良いシーンでした。

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この作品は、ヒロインが喋れないという制約から、表現がとても難しい作品です。ですが、そういった意味では、山田監督はまさにうってつけの監督だったかもしれません。前述した通りストレートな表現に頼らない、ちょっとした仕草にこだわって描くその演出は、本当に素晴らしかったです。山田監督らしい青春群像劇。本当に楽しめました。ぜひ、劇場で見て欲しいですね。

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