輪るピングドラム
輪るピングドラムのBD Boxが出たので、購入して一気に見なおした。
幾原邦彦監督作品の輪るピングドラム。相変わらず難解なメタファを多様し、最後に一気に種明かしをする見事なストーリー。
キャッチコピーである「きっと何者にもなれないお前たちに告げる」、「僕の愛も、君の罰も、すべて分け合うんだ」がまさにテーマとなって最後までストーリーの核になります。結構残酷なお話。
「何者にもなれない」は、捨てられた子供達を指していて、作中では「こどもブロイラー」という施設として象徴的描かれます。こどもブロイラーでは子どもたちは粉々にされて「透明」にされるという表現が使われています。透明といえば最新作のユリ熊嵐でも「透明な嵐」というモノが出てきますね。そんなこどもブロイラーに捨てられた陽毬を晶馬が救うことで家族になります。作中では「選ぶ」という言い方をされています。「選んでくれてありがとう」、というセリフが使われるのは、ここに居ていいという存在理由をくれたということで、家庭崩壊などの問題を暗に表現しているのでしょう。実際、作中の3兄弟は全員血が繋がっていない。
「愛を分け合う」は、作中で交換される果実、ピングドラムとして表現されます。
最初は冠馬が箱の中で見つけた1つのりんごで、箱の中で半分を晶馬に分け与える。要は命の半分を分けあったということです。
その後、こどもブロイラーで陽毬を助けた時に晶馬が1/2個の更に半分、つまり1/4個分を陽毬に分ける。
次に、1話でプリンセス・オブ・ザ・クリスタルが、冠馬から1/4個分を取り出す。これで陽毬は半分を持つことに。その後、陽毬が死ぬことで1/4個分がそれぞれ晶馬と冠馬に戻る。
そして、最終話で晶馬は自分が持つ1/2個、つまり最初に冠馬からもらった分を冠馬に返す。これで、晶馬の命は尽きる。
最後に、冠馬は全てのピングドラムを陽毬に与えることで陽毬を生かす。冠場もこの時点で退場。という感じだと思います。ややこしいですが、要は命を分け合うことを繰り返していて、それが家族の愛だということでしょう。また、このややこしいやりとりが、あの象徴的なセリフ「生存戦略」なわけです。
運命の乗り換えの呪文の伝わり方も愛を分けあった結果と言えます。最初は桃果が日記に記すわけですが、それが陽毬に伝わり、ダブルHに伝わり、苹果に伝わるという。桃果から陽毬にどう伝わったのか分かりませんが、直接日記ではなく人の繋がりで伝わっていくのが愛を分けあった結果と言えるでしょう。
「罰を分け合う」は、最初は冠馬の両親が起こすテロ。このテロの表現も明らかにオウムの事件をモチーフにしていて、よくできたなあと思います。この事件の罰をその後家族となる3人が受ける。
実質的には陽毬が選択されて死に至る病気として罰を受けるわけです。その他のシーンでも多蕗の報復を冠馬が受けたり、時々罰を受けるシーンが登場します。
最後、運命の乗り換えの呪文を使った苹果が代償としての罰を受けようとするが、それを晶馬が肩代わりする。話の筋的には、直接の罰の原因を作った晶馬の両親の罰を最後晶馬が持っていった感じ。
これらの愛と罰の交換が、最後陽毬と苹果を生かして運命の乗り換え後の世界に繋がるわけです。これが何話にも散りばめられているので、最後まで見ないと全くわからない。ピングドラムも最終話で晶馬から取り出したものが半分だったから、最初に冠馬が分け与えた半分って分かるわけで。
こういう社会的に捨てられる子供や、テロといった社会問題が起きるプロセスを描きつつ、絶望するばかりではないという希望を最後に描く風刺だけに留まらない作品なんですね。何度見返しても考えさせられる作品です。
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